資料のページへ都教委情報メールニュースへブログへホームへ管理人へメール


2006年8月27日更新
「ピースリボン」裁判判決 (東京地裁06年7月26日)

裁判所ホームページの「下級裁判所判例集」
判決全文が掲載されました。


判決全文を読む
 (※A4サイズで57枚。PDFファイルですが、320KBなのでそんなに重たくはありません。)


 7月26日、東京地裁で「ピースリボン」裁判の判決が出ました。「原告の請求をいずれも棄却する」で始まる不当判決でした。以下に報道と判決要旨をまとめました。

※都教委情報メールニュースより抜粋
 【都教委News54】速報:「ピースリボン」裁判 棄却判決(東京地裁)
 http://blog.livedoor.jp/suruke/archives/50973868.html

●「ピースリボン」裁判とは・・・
 2000年、国立第二小学校の卒業式で、初めての「日の丸」が掲揚されました。佐藤美和子さんは音楽の授業で「日の丸・君が代」は強制されるものではないと伝えていましたが、突然の掲揚に動揺する卒業生に再度それを伝える必要を感じ、青いリボンにメッセージを託して卒業式に出席しました。そのことを精神的職務専念義務違反に問われて文書訓告を受け、2004年2月東京都と国立市を相手取り国家賠償を求めて東京地裁に提訴しました。

■日の丸抗議リボン 処分は可能(NHK7/26)
 http://www3.nhk.or.jp/news/2006/07/26/d20060726000109.html
・・・26日の判決で東京地方裁判所の金井康雄裁判長は「実害がなくても精神的な活動を理由に処分を行うことはできる」としたうえで、「公務員は表現の自由についても勤務時間中は制約される度合いが高い」と指摘して訴えを退けました。裁判では、式の進行を妨げない行為でも処分の対象になるのかどうかが争われましたが、判決は、教育委員会の裁量を広く認め、精神的な活動も処分の対象になるという判断を示しました。


■卒業式で日の丸反対リボン、処分は「適法」 東京地裁(朝日7/26)
 http://www.asahi.com/national/update/0726/TKY200607260208.html
・・・都教委によると、訓告は教員の履歴に記載されない。判決は、訓告がそうした「実害」のない処分だったことを重視した。金井裁判長は「リボン着用について、市教委が『注意力のすべてが職務の遂行に向けられていなかった』と評価し、訓告の対象としたことが原告の思想・良心の自由を侵害するとはいえない。公務員は表現の自由については、職務の公共性に由来する内在的制約を受ける」とも述べた。

■リボン訴訟、教諭が敗訴/卒業式の「日の丸」抗議
         (秋田魁新報・徳島・西日本7/26)
 http://www.sakigake.jp/servlet/SKNEWS.NewsPack.npnews?newsid=2006072601000872&genre=national
 http://www.topics.or.jp/Gnews/news.php?id=FN2006072601000475&gid=F01
 http://www.nishinippon.co.jp/nnp/national/20060726/20060726_062.shtml
・・・金井康雄裁判長は「職務に専念していないことを理由とした今回の処分が
社会通念上、著しく妥当性を欠き、裁量権を乱用したものとはいえない」と判断した。


平成18年7月26日(水)午前10時00分判決言渡し
平成16年(ワ)第3156号 損害賠償請求事件
原 告 佐藤美和子
被 告 国立市,東京都
裁判所 東京地方裁判所民事第35部
    金井康雄(裁判長),坂庭正,小川卓逸(言渡しには関与せず)

判 決 要 旨

【第1 主文】
 原告の請求をいずれも棄却する。

【第2 原告の請求】
 被告らは,原告に対し,各自420万円及び内240万円に対する平成16年2月26日から,内180万円に対する平成17年11月18日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。(総額420万円及びこれに対する遅延損害金の請求である。)

【第3 事案の概要】
1 原告(東京都立川市在住)は,昭和52年4月小学校教諭に任用され,本件事件当時(平成11年4月1日から平成16年3月末日まで),被告国立市(被告市)が設置・管理する国立市立第二小学校(本件小学校)に教諭として勤務し,主に音楽の授業を担当していた。原告は,平成16年4月1日付けで杉並区立第四小学校に異動した。
 被告東京都(被告都)は,都下の区市町村立学校の教員について,給与を負担し,任命権を有している。

2 平成12年3月24日開催された本件小学校平成11年度卒業式に関し,「児童30人,国旗降ろさせる 校長に土下座要求 卒業式直後 一部教員も参加」との見出しの新聞報道がされた。被告市教育委員会及び被告都教育委員会は,同卒業式に関して,原告を含む本件小学校の教職員から聞き取りを行った。原告は,同卒業式にリボンを着用して(本件訴訟ではリボン着用の意義が争われている。)出席したことについて,同年8月22日被告市教育委員会から職務専念義務違反を理由とした文書による訓告を受けた。なお,本件小学校の教職員の中には,同卒業式前後の言動に関し,被告都教育委員会から戒告処分を受けた者もいる。

3 その後,@本件小学校の入学式や卒業式に関し,同校校長が原告に対して君が代(以下「国歌」という。)斉唱のピアノ伴奏を要請し,原告がこれを断る。
A原告が音楽の授業の中で我が国による朝鮮半島支配の歴史について言及するなどの出来事があった。

【第4 原告の主張等】
1 原告は,被告らが,原告の思想・良心の自由,信教の自由,教育の自由及び表現の自由等を侵害する不法行為をしたと主張して,国家賠償法1条1項及び3条1項に基づき,慰謝料及び弁護士費用の合計420万円並びにこれに対する遅延損害金の支払を請求した。請求額の内訳は,後記2(1)ないし(6)の一連の行為によるものが240万円(慰謝料200万円,弁護士費用40万円),同2(7)ないし(9)の各行為によるものがそれぞれ60万円(慰謝料50万円,弁護士費用10万円)である。
 被告らの不法行為についての原告の主張は多岐にわたるが,その骨子は後記2(1)ないし(9)記載の9点である。
 なお,適用が問題となる上記国家賠償法の規定について補足すると,被告都の職員の不法行為については,被告都が同法1条1項に基づいて責任を負い,また,被告市の職員の不法行為については,被告市が同項に基づいて責任を負うほか,不法行為等の給与を都が負担している場合には,被告都も同法3条1項に基づいて責任を負うこととされている。

2 被告らの不法行為についての原告の主張の骨子は次のとおりである。

【平成11年度卒業式関係】
(1)平成11年度卒業式において,当時の本件小学校校長(澤幡校長)が,教職員との十分な議論も児童に対する事前の説明もせず「日の丸」(以下「国旗」という。)を掲揚した。
(2)被告市教育委員会の担当者が原告に対して行った上記卒業式前後の原告の言動等に関する聞き取りの態様が,原告の信条を推知し,これに非難・処罰を加えようとするものであった。
(3)被告都教育委員会の担当者が原告に対して行った上記卒業式前後の原告の言動等に関する聞き取りの態様が,原告の信条を推知し,これに非難・処罰を加えようとするものであった。
(4)上記の文書による訓告が原告の思想・信条の自由等を不当に制約するものであり,また,訓告に先立って十分な告知・聴聞の機会が与えられなかった。

【その後の関係】
(5)本件小学校の12年度卒業式及び13年度入学式(いずれも平成13年実施)に関し,澤幡校長が原告に国歌斉唱のピアノ伴奏を強要し,また,これにより(信仰上の理由により国歌斉唱のピアノ伴奏ができない)原告を自己の信仰・信念を告白せざるを得ない状況に追い込んだ。
(6)本件小学校の13年度卒業式及び14年度入学式(いずれも平成14年度実施)に関し,澤幡校長が原告に国歌斉唱のピアノ伴奏を指示し,これを断れば平成14年度に同人が望む音楽の授業を担当させずに学級担任をさせる旨を告げた。
(7)平成14年12月当時の本件小学校校長(川島校長)が,原告が音楽の授業の中で北朝鮮による邦人ら到問題や戦前における我が国の朝鮮半島支配について話したことに関し,保護者から抗議の電話があったとして,原告の授業内容について児童を対象とした調査を行うなどして原告の授業に介入した。
(8)平成15年度の校務分掌に関し,国歌斉唱のピアノ伴奏を拒否したことに対する報復として,川島校長が,原告にその希望する5,6学年の音楽を担当させなかった。
(9)平成16年4月期の異動に関し,国歌斉唱のピアノ伴奏を拒否したことに対する報復として,原告が両親の介護の必要から異動が困難であると申告していたにもかかわらず,川島校長が,被告市教育委員会に原告の異動を具申し,被告都教育委員会が,原告の杉並区立第四小学校への異動を発令し,また,被告市教育委員会の職員が,杉並区教育委員会に対して原告が信仰に基づいて国歌斉唱のピアノ伴奏を拒否していることを伝えた。


【第5  当裁判所の判断の要旨】
 上記第4,2記載の原告の各主張についての当裁判所の判断の骨子は次のとおりである。なお,原告の主張が多岐にわたっているので,具体的な事実関係については判決文を参照されたい。その便宜のために,判決文中の該当箇所を( )内に摘示した。

1 原告の主張(1)について
 教職員との関係については,本件の事実関係の下においては,澤幡校長は,国旗掲揚実施について本件小学校教職員の理解を得るべく努力していたと認められる(22頁第3,1(1))。これに加えて,小学校学習指導要領に「入学式や卒業式などにおいては,その意義を踏まえ,国旗を掲揚するとともに,国歌を斉唱するよう指導するものとする」と定められていること(23頁台第3段落),本件においては,国旗が卒業式会場である体育館内ではなく,校舎屋上に掲揚されたこと(5頁(2)第2段落)など諸般の事情を併せ考慮すると,澤幡校長が,最終的に校務をつかさどる者として,その責任と判断で,11年度卒業式において国旗掲揚を実施したことが,校長に与えられた権限の逸脱・濫用にあたり,違法であると認めることはできない(22頁1(1))。
 児童との関係についても,教職員との関係について述べたのとほぼ同様のことが当てはまる(25頁ア)。

2 原告の主張(2)について
 問題となっている聞き取りは,そこで質問された事項等を検討すると,原告の内心を推知しようとするものであったと認めることはできず(26頁2(1)),したがって,特定の内心を有していることを非難・処罰しようとするものであったと認めることもできない。

3 原告の主張(3)について
 前記2と同様である(28頁3)。

4 原告の主張(4)について
 文書による訓告は,これを受けた者の法律上の地位に影響を与える懲戒処分ではなく,対象者の職務遂行上の問題を指摘し,その改善を促すための服務監督権限に基づく事実上の措置にすぎず,文書による訓告が違法とされるのは,それが社会通念上著しく妥当を欠き,裁量権を濫用したと認められる場合に限られる(29頁4(1))。
 そして,原告は,校長による国旗掲揚が国歌の強制に当たると考え,強制があってはならないとのメッセージを送るためにリボンを着用したところ(29頁(2)ア),上記のとおり,校長による国旗掲揚が違法であると認めることはできないこと,本件小学校の複数の教職員が原告が着用していたリボンと類似のリボンを着用して卒業式に出席したこと,「国旗のおしつけ」に反対する意思を表明する「ピースリボン」の着用を呼びかけるビラや国旗掲揚に反対するビラが卒業式当日本件小学校校門付近で配布されていたことなどの諸般の事情(事実関係は31頁(イ)第2段落)を考慮すると,職務専念義務に違反したとして原告に対してされた文書訓告が社会通念上著しく妥当を欠き,裁量権を濫用したものであると認めることはできない(29頁4(2))。
 また,文書訓告の手続きの適正についても,社会通念上妥当を欠くと認められる点はない(33頁(3))。

5 原告の主張(5)について
 澤幡校長は,原告に対して,国歌斉唱のピアノ伴奏を要請しているが,原告はこの要請を断り,12年度卒業式での国歌斉唱はテープ伴奏により行われ,13年度入学式でも国歌斉唱のピアノ伴奏はなかった。また,国歌斉唱のピアノ伴奏をすることができない個人的理由を述べたいとの原告の申出を澤幡校長は制止した。(以上の点に関する事実経過は,6頁(3)及び36頁5(1)ア)
 このような事実経過に徴すると,澤幡校長が原告に国歌斉唱のピアノ伴奏を強制したと認めることはできないし,信仰等の告白を強制したと認めることもできない。

6 原告の主張(6)について
 澤幡校長は,原告に6学年と2学年の学級担任を打診した。これには,当時不登校になっていた児童(新6年生)が原告を慕っていた,原告が校務分掌の第2希望として2学年の担任を挙げていたなどの理由もあり(事実関係は,40頁6(1)ア),このような事情を考慮すると,澤幡校長が原告に学級担任を打診したことが違法であると認めることはできない。

7 原告の主張(7)について
 本件においては,保護者を名乗る人物から原告の授業内容について抗議があった。抗議をした者の話によれば,原告は,音楽の授業中,いわゆる邦人ら到問題に関して,朝鮮民主主義人民共和国が邦人に対して行ったことと同様のことを我が国が過去に朝鮮半島の人々に対して行った旨の発言をしたとのことであった。この抗議は,その内容が明らかに不当なものであるということはできず,また,抗議があった当時原告は休暇中であった。(以上の事実関係は8頁(5)及び43頁(1)第2段落)これらの事情などにかんがみると,所属教員を監督すべき川島校長が原告の授業の内容を児童から調査したことが,原告の授業に対する不当な介入に当たると認めることはできない(43頁(1))。

8 原告の主張(8)について
 当時,本件小学校には,原告の他に音楽専科の教員が在籍していた。同教員は,平成14年度に新規採用された者であり,同年度は2,3,4学年を担当した。川島校長は,同教員に多様な経験を積ませるために,平成15年度には5,6学年の音楽を担当させることが相当であると考えた。これに加えて,川島校長は,入学式や卒業式においてはピアノ伴奏により国歌斉唱を行い,これを音楽の授業の一環として5,6年生の音楽を担当する教員(本件小学校の卒業式に出席する児童は5,6年生のみである。)に担当させることが相当であると考えていた(事実関係は45頁8(1)ア)。このような事情及び小学校学習指導要領が「入学式や卒業式などにおいては」,「国歌を斉唱するよう指導するものとする」と定めていることなどに徴すると,川島校長が原告に平成15年度5,6学年の音楽を担当させなかったことについて,裁量権の逸脱又は濫用があると認めることはできない(詳細は46頁イ第2段落)。

9 原告の主張(9)について
 本件異動は,被告東京都が定めた「東京都区市町村立小・中・養護学校の教員の定期異動実施要領」にのっとって行われたものであり(詳細は48頁イ),裁量権の逸脱又は濫用となる特段の事情も認められない(詳細は51頁ウ)。
 原告が信仰に基づいて国歌斉唱のピアノ伴奏を拒否していたことは,当時既に原告自身が書物等で公表していた事柄であり,これを伝えることが原告のプライバシー侵害に当たるとまでは認められない(57頁(3))。
inserted by FC2 system